ペ ロ タン 東 京 はこの た び 、所 属 アーティスト1 3 名 によるグル ープ展 「Head in the Clouds」を開催いたします。本展のコンセプトは英語の 慣用句、"head in the clouds"に含まれる概念、"空想にふける精神状 態"と、"現実や差し迫った危険に気付かないこと"、その両者を探求する ものです。デジタル化や情報過多にさらされ、遠い世界に心を奪われたま ま日常を過ごし、しばしば目の前の現実に意識を完全に向けることがで きない現代社会において、この慣用句は特に適切な表現でしょう。アート は私たちを、"今、ここ"へと引き戻し、より深い集中力と思考とともに、知 覚的な体験を再起させます。
今回展示される作品群は、多様な文化背景を持ち、そのプラクティスや関 心も様々なアーティストたちの声を通して、ときに内省的な世界へと深く 誘い、ときに現実に目を向けるよう促します。
ローラン・グラッソによるシリーズ作品《Studies into the Past》は、いく つもの時世が交差するパラレル・ワールドへと私たちを導き入れます。こ れらの作品には15~16世紀のイタリアやフランドルの画家からインスピ レーションを得た様式が用いられ、日食・月食、オーロラ、隕石など、19世 紀以前にはほとんど描かれることのなかった天文現象や、もうもうとした 不思議な煙、眺望のなかに浮遊する岩などの謎めいた光景が描かれてい ます。このシリーズは、"異なる時代の現実"に対する私たちの認識を再構 築することを試みた、 壮大でコンセプチャルなプロジェクトなのです。
また、グラッソの《Future Herbarium》は、福島第一原子力発電所事故 後に突然変異が確認されたヒナギクから着想を得ており、こうした植物の 化石標本を想像するとともに、突然変異を起こした花々の習作を19世紀 のハーバリウムの様式で描いています。
一方で、ジャン=フィリップ・デロームが描く家庭的な花々は、誰かのくつ ろぎの場へと足を踏み入れるかのごとく、鑑賞者を安全で平和な空間へ と招き入れます。デロームの気楽でゆるやかなタッチは、下絵を描かずに、 独特の自由さで被写体のエネルギーを捉える、自然発生的な制作スタイ ルに起因しているのかもしれません。デロームによるポートレイトや静物 画の表現力は計り知れず、そのプラクティスを通してアーティストとしての 視点を示しています。
obは、その繊細で雰囲気に富んだペインティングに繰り返し登場する大 きな目の少女を通して、女性心理における夢幻的なフィルター(見え方) を探求しています。デジタル世代としてのルーツからインスピレーションを 得るとともに、白濁した色彩と柔らかな境界線を用いた特徴的な様式は、 漫画、アニメ、ビデオゲーム、さらに西洋絵画の要素をも想起させます。ob は自身の創作物について、自分や友人たちの別バージョンであると言及し ており、考えや夢を充分に表現することがまだできない、 "不確実性に満 ちた思春期をさまよう"若者を表現しています。
大谷工作室もまた、自身の記憶や経験をもとに創作を行っています。その 斬新な作品の多くは巧みに奇妙さと絡み合い、太古の像が宿っています。 大谷工作室のペインティングや立体作品にみられる顔や姿は、ありのま まの感情や行動から生まれる素朴さを体現しています。こうした子どもの ような性質は、単純化された形式言語と、モチーフの幼い容貌によって強 調されています。恥じらいのない傷つきやすさに満ちた、ひときわ穏やか なキャラクターたちは、観る者に共感と静かな関わり合いを求めているよ うです。
タカノ綾は、人間と宇宙が一体化し、異世界の動物や植物とも会話を交 わしながら、ともに完璧に調和して生きることができる美しい空想上の世 界を表現し、重力や現実の制約を受けないエリューション(理想郷)を構 築しています。タカノは、古典文学、神話、民話などからインスピレーション や参考を得て、人間、動物、植物、その他の存在の区別をなくした空想の 世界を示しています。
クララ・クリスタローヴァが織りなす世界は、奇妙でありながらも親しみ やすく、生命が宿っているかのような作品群から成ります。風変わりで、独 りぼっち、物静かな、まるで迷子のキャラクターたちには、脆さと人間らし さが溢れ、観る者の共感を呼びます。クリスタローヴァは北欧の物語や伝 統的な神話を題材に、恐怖、愛、悲哀、罪悪感といった人間の基本的な感 情を伝えることを試みています。それらはまるで私たちが幼少期の記憶を 思い出すかのように、作品から浮かび上がってきます。
加藤泉が創り出す謎めいた生き物たちもまた、鑑賞者の心を捉えます。そ の存在は原始的で、手つかずの、どこか胎児のような性質を醸し出し、そ れらは未発達的であると同時に、別世界的で、原型的でもあります。加藤 は直感的な創作を行うとともに、しばしば石や天然素材の織物など、現地 調達された素材を用いて、圧倒的な魂を持ち、堂々たる存在感を放つキャ ラクターたちを生み出します。観る者はこの神秘的な生き物たちに導か れ、自分自身と向き合うこととなるでしょう。
ガブリエル・リコの作品は、一見すると異質なものの構成から生み出され る"対話"によって特徴づけられます。リコは、岩、枝、ネオン、剥製、家庭用 品など、様々な素材を組み合わせることで、身近なオブジェクトや素材を 巧みに再文脈化し、鑑賞者に人間社会と自然環境の関係性や、それぞれ の原理について考えるきっかけを与える立体作品を制作しています。
また、パリ在住のヨハン・クレテンも自然素材を用いた作品創りを行って おり、現代美術における陶芸復活の先駆者として知られています。クレテ ンは、アート界においてメディウムとしての粘土がまだ過小評価されてい た1980年代から活動を始め、豊かさやセクシュアリティ、古代や原始の感 覚を醸し出す作品を制作しています。
立体作品《Glory》は、ルネッサンス期の陶芸の名工であるベルナール・パ リッシーへのオマージュとして制作されたシリーズ《Les Vagues pour Palissy》に続くものであり、精力、復活、生命のサイクルといった、壮麗な イメージを表現しています。これらは後に、《The Glories》と名付けられ た壁面立体作品へと発展し、その堂々たる金の輝きと女性的な曲線によ り、光輝や繁栄の感覚を呼び起こすとともに、その幾何学的な完璧さを通 して、内なる平和を呼び起こすものとなりました。 本展に参加する幅広いアーティストたちによる多岐にわたる作品を通し て、私たちは世界中を旅し、様々な時代、テーマ、"語彙"を跨ぎながらも、 その都度、自分自身の感情的、知的、心理的に最も深い部分へと連れ戻 されるようです。「Head in the Clouds」は、昨今のパンデミックによって 引き起こされた不動性を、"今"に留まることを集団的に嫌う私たちとい う、より大きな問題提起の機会として捉えています。
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